川原礫です。『ソードアート・オンライン ユナイタル・キング』をお読み下さり、ありがとうございます。
このお話は、《SAOゲーム10周年記念小説》として企画されたもので、物語の舞台や設定が原作小説と一部異なっていますので、最初にそのあたりのことを軽く説明させて頂きます。
記念すべきゲーム第一作、『ソードアート・オンライン インフィニティ・モーメント』は、二〇一三年三月にバンダイナムコエンターテインメント様より発売されました。当時、ライトノベル原作の本格RPGはかなり珍しかったのですが、二見鷹介プロデューサーを始めとするスタッフ諸氏のご尽力とSAOファンの皆様のご支援の甲斐あってスマッシュヒットとなりまして、以降十年にもわたってコンシューマはもちろんスマホ用アプリやアーケードでも続々と新作がリリースされるという、ゲーム大好きな原作者にとってはまさしく冥利に尽きる体験をさせて頂きました。
その結果、SAOゲームは、《ゲーム時空》とでも呼ぶべき独自の世界を築くに至りました。原作時空との最たる違いは多くの魅力的なオリジナルキャラクターの存在ですが、それ以外にも原作では旅立ってしまったユウキやユージオが存命していたり、原作には登場しないゲームがザ・シード連結体に含まれていたりと、大小の差異が存在します。
しかしそのゲーム時空の物語は、十年目となる二〇二三年十月に発売された『ソードアート・オンライン ラストリコレクション』をもって堂々たるフィナーレを迎え、ゲームのエピローグでは各キャラクターのその後が描かれました。さらに一年後、二〇二四年十月には新作『ソードアート・オンライン フラクチュアード・デイドリーム』が発売される予定(このあとがきを書いているのは九月なので)ですが、こちらは原作小説に準拠した設定となっているため、ゲーム時空の物語ではありません。
前置きが長くなりましたが、私がこの記念小説に着手したのは、『ラストリコレクション』が発売され、ゲーム時空に幕が下ろされてからしばらく経った頃でした。とても素晴らしいエンディングでしたが、私の胸にはずっと寂しさというか、ゲーム時空のキャラクターたちとの別れを受け入れたくないという気持ちが存在していて、「だったら、ゲーム時空でもラスコレ以降にもう一騒動あったことにしよう!」と考えて書き始めたのがこの『ユナイタル・キング』というわけです。
タイトルでお解りの方はお解りだと思いますが、これは原作で現在刊行中の『ユナイタル・リング』編の駄洒落……ではなくパラレル展開ということで、ザ・シード連結体のプレイヤー全員が一つの巨大世界に飛ばされたユナリン編に対して、全てのザ・シード世界に一人の巨大おじさんが出現したという設定になっております。しかしそれで終わりではなく、この事件は単なる前フリであり、ゲーム時空でも『フラクチュアード・デイドリーム』とよく似た、さらなる大事件が起きる……んじゃないかな、という原作者の希望というか妄想というか、そんなお話です。残念ながらそこまで書くことはできないと思いますが、皆様にはぜひ、ユナイタル・キング事件のあいだにスキャンされたキリトたちの記憶がああしてこうしてどうなった、と想像の翼を広げて頂ければと思います。
お話の舞台を《ガンゲイル・オンライン》にした理由にも触れておかないとですね。
GGO編をモチーフとしたゲーム『ソードアート・オンライン フェイタル・バレット』は、いまのところSAOゲームでは珍しく、主人公がキリトではなくオリジナルキャラクターとなっています。当然、他のゲームシリーズには登場しませんが、多くの読者さま、プレイヤーさまが私と同様に強い愛着を感じておられるであろう彼または彼女こそ、10周年記念小説の主人公に相応しかろうと考え、アファシスともども登場願うこととなりました。ちなみに、一人称は《ぼく》ですが性別を限定しない描写になっていますので、フェイタル・バレットをプレイされた方は、多くの冒険を共にした主人公を思い出しつつお読み頂けると嬉しいです。
また、舞台がゲーム時空のGGOなので、当然ながらゲームシステム周りの描写は原作ではなくSAOFBのほうに準拠しています。装備やスキルの設定、オリジナルキャラクターの口調等々を頑張って思い出したり、資料で確認したりして可能な限りの再現に努めたのですが、FBとの矛盾や差異がいくらかは存在することと思います。そこは何とぞご寛恕のほどお願いいたします。
あとがきと言いつつ説明に次ぐ説明になってしまいましたが、最後にもう一つだけ。
お話の終わり方、私はこういう「多くは語らず」な感じが好きなのですが、著者校正の時に改めて読み返してみると、ボス撃破の報酬が何だったのかまでボカしてしまうのはさすがにちょっと不親切だったな……と思ったのでここで補足しておきます。
キリトたちの協力あって見事ユナイタル・キングを撃破した主人公は、彼または彼女にだけ聞こえた謎の声に、何を望むかと問われます。ここで、たとえば「GGOの支配者になりたい」とか「5000兆クレジット欲しい」とか望めばきっと叶えられたでしょう。しかしもちろん《ぼく》がそんなことを望むはずもなく、彼または彼女の答えは、「イベントバトルに参加した全プレイヤーで分配できる形の報酬」でした。結果、《ぼく》はメモリーチップとしてオブジェクト化された膨大なお金と経験値を受け取り、それを三段ロケット作戦に参加したプレイヤーには少し多めに、そうでないプレイヤーにも公平に分配して、余さず使い切りました。しかし仲間の中でキリトだけは、ユイと菊岡に連絡するためにボス撃破後すぐさまログアウトしたので分け前を貰い損ねてしまい、《ぼく》はラストでそのことを謝ろうとした……というわけです。
たぶん、この事件からそう遠くないうちに本番の大事件が勃発し、キリトたちやストレアたちと《ぼく》は新たな戦いへと飛び込んでいくことになるでしょう。いや、もしかしたら、ラスコレで提示された未来の先にも、また別の戦いが待っているのかもしれません。
人生が続く限り、冒険も続く。SAOゲームシリーズは、十年もの時をかけて、そのことを私たちに教えてくれました。
改めて、十周年おめでとうございます。そして多くの方々に、ありがとうございました。
二〇二四年九月某日 川原 礫