ソードアートオンライン アンリーシュ・ブレイディング

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《黒皇帝》編 第三話

 暗黒界、オブシディア城の遥か南西。かつての異界戦争で、現実世界から召喚された無数の兵士と、創世神ステイシアとしてアンダーワールドへやってきたアスナが戦った遺跡がある。暗黒界人たちが住む場所からは遠く離れ、今や近寄る者もいない遺跡のはずだが、そこにふたつの影が立っていた。ひとりは外套を被った男で、聞き取りにくい声で神聖術の式句を唱えている。もうひとりはきらびやかな鎧を着た、巨躯の男だ。奇妙なのは、ふたりとも暗黒界人ではなく、人界人に見えることだった。
 やがて外套の男が詠唱を追えると、傍らにあった泥の塊が蠢きだし、やがて巨躯の男をも凌駕する、全長三メルにも及ぼうかという巨大な人型の生き物の彫像となった。

「ふむ……これがジャイアント族の長、シグロシグとやらの彫像か」
「はい、トルガシュ様」
 外套の男がうやうやしく膝を突く。トルガシュと呼ばれた男は尊大な態度で頷いた。
 トルガシュ・サザークロイス。かつて人界で勃発した四帝国の大乱においてセントラル・カセドラルに攻め入り、代表剣士キリトと剣を交え、破れた南帝国の皇帝である。一度は命を落としたものの、皇帝家に伝わる秘法によって甦った。ロニエやティーゼが戦ったクルーガ・ノーランガルスと同じように。
「確かに、今にも動き出しそうな出来映えだな。本物に似ているかどうかはわからぬが」
「これは、まさにシグロシグに瓜二つ……いえ、シグロシグそのものと言っても過言ではないほどでございます」
「そうか。では次の段階だ。見せてみよ、その術式を」
「はっ!」
 外套の男は立ち上がると、両手を天にかざし、籠もった声で詠唱を始めた。

「……今こそ甦れ、ジャイアントの長シグロシグよ!」
 数分に及ぶ詠唱を終えると、外套の男は肩で息をしながら彫像に命じた。その言葉に応じるように、シグロシグの泥で出来た体が赤みを帯び、やがてドクンドクンと脈打ち始めた。最初は、腕、次に脚と少しずつ動きが大きくなり、目に光が宿る
「グ、グォォ……」

「おおっ! 本当に動いたぞ! 聞いてはいたが、見事なものよ」
 トルガシュが立派なあごひげを撫でながら愉快そうに笑った。
「その目で見た相手の彫像を寸分違わぬ姿で作り上げ、さらに魂まで再現してしまうとは」
 皇帝の賛辞に、外套の男は誇らしげに胸を張った。
「魂とは見姿に宿るものなのです、陛下。生前の姿を寸分違わず再現すれば、その魂を擬似的に移し描くことも可能となります」
「死ぬ前の力を失わずに、か」
 もしそうなら、このシグロシグも人間の騎士など一撃で潰してしまうほどの腕力をもつことになる。
「はい、無論でございます。さすがに記憶の全てを再現するのは困難ですが、それゆえに自我が弱く、作成者である私の命令を忠実に実行致します」
「なるほどな。死者の再生がこのような形で叶ってしまうとは」
 唸り声を上げながら、しかし微動だにせず立っているシグロシグを見ながら皇帝は感嘆する。だがすぐに首をかしげ、外套の男を振り返った。
「しかし、彫刻術師よ。死者にこだわらずともよいのではないか。生者の姿を作り上げてしまえば……そう、たとえばあの生意気な小僧、人界統一会議の代表を作れば、あれと同じ剣士が手に入るわけだろう」
 そうなれば、人界をこの手に収めることは容易い。強者がいくらでも量産できるのだから。だが、皇帝の思惑どおりにはいかなかった。
「畏れながら閣下。私は魂亡き者しかミニオンにすることは出来ませぬ。生者の模倣はなんども試しましたが、術をかけた途端に砕け散ってしまうのです。おそらく、生ある体に魂がある間は、不可能なのだと思います」
「ふん、そうか。それは残念だ」
 トルガシュは吐き捨てた。だが、その言葉と裏腹に、さほど落胆したようには見えなかった。
「だが、死んだ者でも充分であるな。生み出せるのはこいつだけではないのだろう?」
「はい。人界人であっても、暗黒界の亜人であっても、私がこの目で見たものであれば」
 外套の男は深々と頭を下げる。
「それは頼もしい」
 トルガシュの言葉に、男はますます頭を下げた。
「これも、私の才を評価し、ミニオン化の術式を授けてくださった皇帝家の皆様のおかげでございます」
「うむ。これからも、永きにわたり我らに仕えよ……ところで、お前の名は何といったか」
「人界での名は、カセドラルを離れたときに捨てましてございます」
 男の口調に、憎しみと怒りが混ざった。
「私のことは、ただ彫刻術師、とお呼びください」
「そうか。ならばそう呼ぼう、彫刻術師よ。引き続き、戦士の製造に励め」
「畏れ入ります」
 頭を下げた彫刻術師に背を向け、トルガシュは部屋を出て行った。彫刻術師は頭を上げぬまま、憎々しげにつぶやく。
「私のように優秀な術師をないがしろにしたこと、後悔させてやるぞ……人界統一会議」

「反乱だと!? まさか……」
オブシディア城で伝令の報告を受けたイスカーンは眉をひそめた。異界戦争での和平後にいくどか反乱は起きたが、それも全て鎮圧し、ここ一年ほどは落ち着いていた。それに、ジャイアント族やオーガ族の里など反乱の種が生まれそうな場所には、常に斥候を張り付かせている。その警戒をかいくぐって反乱が起きるとは、信じがたいことだった。
「畏れながら、ジャイアント族を中心に、かなりの数が南の荒野に集まっております。暗黒騎士やゴブリン族の弓兵隊が対応しておりますが、戦況は思わしくありません」
「ジャイアントが相手じゃ厳しいな。わかった、すぐに部隊を編成する」
 そう言うと、イスカーンは傍らに控える隻腕の拳闘士に命じた。
「ダンパ、至急リルピリンに伝令を出せ。オーク族の戦士はまだ若いが、数が必要になる」
「はっ、すぐに」
「それからオーガ族だな。あいつらが向こうに着くとやっかいだ。お前が直接行って、にらみを効かせろ」
「わかりました、総司令官」
 ダンパが駆けてゆくのを見ながら、次の指示を考えていると、膝を突いた伝令が恐る恐る声を掛けてきた。
「そ、総司令官……その……」
「おお、すまなかった。伝令ご苦労だったな。今日はゆっくり休め」
 イスカーンがねぎらったが、伝令はわずかに首を振って顔を上げると、何かを言おうとして口ごもる。
「どうした、言いたいことがあるなら言ってみろ。なにか気になることがあったのか」
「はい……いえ、真実かどうかわからず、お伝えすべきか迷ったのですが……」
「いいから言え」
 なかなか話を始めない伝令にイライラして、口調が荒くなる。その語気に押されて首をすくめながら、伝令がようやく重い口を開いた。
「はい……実は、死んだはずのジャイアント族の長が、反乱軍の先頭にいたという話がございます」
「死んだはずのジャイアント族……?」
 今の巨人族の長は、一応イスカーンに恭順の意を示している。もちろんまだ生きているが……と考えて、イスカーンは軽く目を見開いた。
「まさか、シグロシグのことか?」
「はっ。異界戦争に参加していた者が、そう申しておりました。無論、見間違いだと思うのですが」
「普通だったら笑い飛ばすところだが……」
 イスカーンの口調はいたって真剣だ。
「最近、信じられねえ事件が起きてるからな。万一ってこともある」
「それから……これも不確かな情報なのですが、敵陣に人界人がいたという目撃情報もございまして」
「人界人……確かか?」
「申し訳ございません、これも聞いた話なのですが」
「いや、わかった。よく伝えてくれた、感謝するぜ」
 馬鹿なことを報告するな、と怒られることを予想していた伝令は、ほっと安堵のため息を吐く。
「とにかく、お前は休め。明日には、また走ってもらうことになるからな」
「は、はい!」
 伝令を下がらせて、玉座の前は無人になる。この場にいるのは、イスカーンと妻のシェータふたりだけだ。
「シェータ」
「わかってる。すぐにキリトと整合騎士たちに連絡する」
「ああ、頼んだ。できればオレたちだけで片をつけたいが、力を借りなきゃならないかもしれねえ」
 顔をしかめるイスカーンを安心させるようにシェータは頷いた。
「オレは拳闘士たちと暗黒騎士団を率いてすぐ出陣する。留守を頼んだぜ」
「……気をつけてね」
「お前こそ」
 リーゼッタの誘拐事件は、まだ記憶に新しい。オブシディア城が戦場より安全だと、今は言い切れないのだ。
「もう二度と、リーゼッタを危険な目に遭わせたりしない」
「ああ、任せた」
 イスカーンとシェータは強く見つめ合い、うなずき合った。そしてすぐにイスカーンは足早に玉座の間を出て行く。それを見送って、シェータは愛竜の宵呼がいる竜舎へと走った。

 翌日、暗黒界にいたイーディス、エントキア、ネルギウスたち三人の整合騎士がオブシディア城に集まっていた。
「反乱軍に人界人が!? 本当なの、シェータ」
「不確かな情報って言ってたけど……たぶん本当」
 シェータの言葉に、ネルギウスも頷く。
「暗黒界でのみ作られるミニオンが、人界にいたという報告もあります。暗黒界に人界人がいても、不思議ではないかもしれません」
「しかも、北帝国の皇帝に続いてジャイアント族ですか。そいつは大事だな、ネギオ」
「悠長なことを言っている場合か、エントキア! それと、私をネギオと呼ぶな!」
 のんきそうなエントキアに、ネルギウスが激しく言い返す。そしてシェータに向き直り、頭を下げた。
「シェータ様、我々に暗黒界で戦う許可を。イスカーン殿の軍に協力し、敵を討ちましょう」
「もちろん。みんな、ありがとう」
 シェータの言葉に、イーディスが「いいって、お礼なんて」と手を振る。
「ついでに、その人界人の正体も確かめないといけませんなあ。大変そうですけど」
「できれば生きたまま捕まえて情報を聞き出したいところだけどね……あたしたちだけじゃ、厳しいかな」
 イーディスとエントキアの言葉にシェータも頷いた。
「イーディス、あなたにはキリトへの連絡を頼みたい。飛竜で行くのが一番早いから」
 シェータの言葉に、イーディスは敬礼で応えた
「りょーかい! 霧舞にお願いして、全速力で行ってくるわ」
「それじゃ、オレらはイスカーン総司令官を追いかけます。行くぞ、ネギオ」
「だからネギオと呼ぶな!」
 エントキアとネルギウスのやり合いに、イーディスが笑う。シェータの顔も、反乱の報を聞いてからようやく笑みが浮かんだ。

 よく晴れた日の昼下がり。セントリアの商業区を、ロニエとフレニーカが並んで歩いていた。
「ええと、針と糸は大丈夫っと。布も買ったし、これで全部だよね、フレニーカ」
「うん、大丈夫だと思う……けど」
「え、何か忘れてる?」
 慌ててロニエは籠の中身を確認し始める。フレニーカが慌てて首を振った。
「ううん、そうじゃなくて……ロニエは整合騎士なのに、街で買い出しとかするんだなって。全然知らなかったから」
「うん、するよ。昔は、整合騎士は人前に出ちゃいけないって言う決まりがあったんだけど、キリト先輩が代表剣士になってから、無くしちゃったんだ。整合騎士も、民衆と交わらなくちゃダメだって」
「さすが、代表剣士殿らしいね」
 フレニーカは、修剣学院時代に聞いたキリトの噂話を思い出しながら頷いた。そのほとんどが、目の前にいるロニエからのものだったが。
「キリト先輩って呼んで大丈夫だよ、フレニーカ。先輩だってそう言ってたでしょ? フレニーカだって、学院の後輩なんだから」
「そうだけど……やっぱりちょっと畏れ多いよ。ロニエたちは、ずっとそう呼んでたからいいかもしれないけど」
「そうかなあ……」
 フレニーカと一緒に来た神聖術師見習いのセルカなんて、キリトって呼び捨てにしてるけど……と口から出かけたが、あそこの関係は特別なんだと思い直した。セルカは整合騎士アリス・シンセシス・サーティの妹で、キリトの相棒であるユージオの幼なじみだ。
「それで、これからどうする? せっかくのお休みだけど、もう戻ろうか」
フレニーカの声で我に返った。キリト周辺の人間関係に想いを馳せると、いつも思索の迷路に迷い込んでしまう。
「あ、うん。まだちょっと時間が早いよね。そうだ、跳ね鹿亭に行って、蜂蜜パイを……」
 みんなのお土産に買っていこう、と言いかけたところで、ロニエたちの頭上を黒い影が覆った。直後、バサッと大きな羽音がして、ロニエたちの髪が揺れる。
「い、今のはなに!?」
 フレニーカが少し怯えた声を出す。だが、ロニエにはその正体がわかった。これは飛竜の羽音だ。
「飛竜……イーディス様の霧舞だ!」
 ロニエが声を上げたときには、その姿はもう小さくなっていた。かなりの速度で飛んでいる証だ。セントリア上空、しかも低空をあんな速度で飛ぶことは通常有り得ない。なにか異常が起きた証拠だ。
「フレニーカ、ごめん! 私、カセドラルに戻らないと!」
「わかった。ロニエ、籠を渡して。これは後から私が持っていくから」
「ありがとう!」
 フレニーカに籠を渡し、全速力でセントラル・カセドラルに向かう。何か悪いことが起きている気がする。ロニエの心臓は不安で早鐘を打っていた。

セントラル・カセドラルの自動昇降台は、上階に向かって上昇中だった。しかたなく、ロニエは大広間がある九十五階まで階段を使うことに決めた。この程度、デュソルバート師範に言われて往復したこともある、と自分に言い聞かせて、全速力で駆け上がる。

「キリト先輩! イーディス様の霧舞が……」
息も絶え絶えになりながら大広間に飛び込むと、そこにはキリトとイーディス、それに副代表のアスナがいた。
「やっほー、ロニエ。久しぶり……って程でもないか。それにしても、どうしたの? そんなに息を切らして」
「今日は休みだったんだじゃないのか、ロニエ」
「い、いえ……大丈夫です!」
 イーディスに急ぐ理由があるとしたら、キリトに会いに行くに決まっている。少し考えればわかったことなのに……と、ロニエは必死に呼吸を整えながら反省していた。あんなに必死になることはなかったのだ。
「でも、来てくれてよかったよ。これからみんなを集めようと思っていたところだから」
 キリトにそう言われて、ロニエはハッと顔を上げる。全速力で階段を上ったのが、少し報われた気がした。
「それなら、私が皆さんを呼んできます!」
 キリトの役に立てるなら、急いで来た甲斐があった。取り越し苦労でも、考えすぎだとしても、やっぱりいつでもキリトの側に駆けつけたい。ロニエの想いはますます強くなっていった。

 三十分後、人界統一会議の主要なメンバーが広間に集まった。整合騎士のファナティオ、デュソルバート、レンリに加え、神聖術師団長のアユハや情報局のシャオが揃っている。その中には、シャーリーとシルヴィーの姿もあった。暗黒界のことなら彼女たちが詳しい、とキリトが呼んだのだ。

「――という感じで、暗黒界の反乱に人界人が関わってる可能性が高いわ」
「皇帝たちが起こした事件は、やはりまだ終わっていなかったのね」
 ファナティオの言葉にキリトが頷く。クルーガを倒した時に飛んでいった宝石の行方は、未だに掴めていなかった。
「それで、代表剣士殿。いかがするおつもりか」
「もちろん、人界からも援軍を出す。これは暗黒界だけの問題じゃない。人界と暗黒界、両方に関わる問題だからね。リーナせんぱ……セルルト将軍にお願いして、人界守備軍からも部隊を出してもらう。カセドラルからは、俺が行くよ」
「代表剣士殿が? しかも、まさかおひとりで行くおつもりではないでしょうな」
「ああ、そのつもりだ」
キリトは当然、と言った顔をして宣言したが、デュソルバートがこれ以上なく苦い顔をする。それを見て、ロニエが慌てて名乗りを上げる。
「でしたら、私が随伴致します! 暗黒界には、以前も行きましたし」
 だが、キリトは優しく首を振った。
「ありがとう、ロニエ。でも今回は俺ひとりで行く。俺とイーディスさんで、一刻も早く向こうに駆けつけたいんだ」
 イーディスの飛竜、霧舞に乗れるのはふたりが限度だ。月駆や霜咲は、まだロニエたちを乗せて飛ぶことは出来ない。それに、反乱軍との戦争中となれば、飛竜を使って行くのも難しいだろう。それを理解して、ロニエは無念な気持ちを押し殺して頷いた。
「だから、みんなにはカセドラルを守って欲しい。暗黒界では、本拠地であるオブシディア城が狙われたんだ。カセドラルも、いつ攻撃に遭うかわからないからね」
「はいっ! ロニエ・アラベル・サーティスリー、命をかけてセントラル・カセドラルを守り抜きます!」
ロニエが大声で誓い、それにティーゼも続く。
「あたしも、ロニエと一緒に戦います。だから、キリト先輩も気をつけてください!」

「ああ。ありがとう、ふたりとも」
「カセドラルの防衛は安心ね。こんなに心強い子たちがいるなら」
 ファナティオがそう言ってふたりの肩に手を置いた。
「ならば、人界守備軍からの援軍については我からセルルト将軍に伝えておこう。以上でよろしいか」
「うん。これで……」
とキリトが会議を締めくくろうとした時、「待って!」を声が上がった。
「シャーリー、どうしたの?」
 イーディスに聞かれて、シャーリーは鼻息荒く食ってかかる。
「わたしも暗黒界に行くぞ! 暗黒界が大変なら、わたしも戦わないと!」
 シルヴィーも真っ直ぐキリトの目をみて言った。
「私も……暗黒騎士として、戦わなければならない」
「そうか……でもなあ」
腕を組んで悩むキリトにアスナが助け船を出した。
「リーナさんに頼んで、人界軍に同行させてもらったら?」
「そうだな……うん、リーナ先輩に頼んでみるよ。それでいいかな、ふたりとも」
キリトの言葉を聞いて、シャーリーの顔がパッと明るくなる。
「わかった!」
 シャーリーの傍らで、シルヴィーも頷いた。
「それじゃ……」
解散、と言おうとしたが、シルヴィーがそれを遮る。
「キリト、さっき言ってた皇帝って……暗黒皇帝のことか?」
 それならば、シルヴィーの両親に無理難題を命じた張本人だ。シルヴィーにとって仇とも言える。
「いや、あれは人界の皇帝のことだよ。人界には以前、四つの国にそれぞれ皇帝がいたんだ。暗黒皇帝ベクタは、もう二度と甦らないと思う」
「……そうか、わかった」
「もしベクタが復活したら、リピア様の仇を取ってやろうと思ったのに!」
 シャーリーも悔しそうに地団駄を踏む。シャーリーも、育ての親同然のリピアをベクタに殺されている。なんて多くの人を不幸にしたんだろう、と改めてキリトはベクタの悪行を憎んだ。
「でも、戦争が起きたらまたたくさんの人が死んじゃうからな。だから、わたしたちで止めよう、シルヴィー」
「うん、わかった。絶対止めよう」
 シルヴィーとシャーリーは、固い握手を交わした。

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